対談・インタビュー

住まいの新しい価値観と温熱環境を育む「OMX」がつくる未来

  • OMX
東京大学 大学院 工学系研究科 前 真之 准教授
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OMソーラー株式会社 代表取締役社長 飯田祥久

 

OMXは21世紀の家にふさわしい革新的なシステムである。暖房、冷房、熱交換換気、給湯のすべてをまかない、健康かつ快適に暮らすための環境を整えながら、地球と家計に優しい省エネルギーを実現。完成までの道のりは、長く険しいものであった。しかし、携わるすべての人間が「住まい手に幸せな暮らしを届けたい」という思いを抱き、今日までこぎつけたのである。共同開発をした東京大学大学院・前真之准教授とOMソーラー・飯田祥久代表取締役社長との対話は、OMXが未来で輝く存在となるまでのプロセスを紡ぐ物語の、プロローグとなるだろう。

 

 

ゼロエネルギーハウスは家計にも優しい

 

 

ーOMXが開発されることになった契機をお聞かせください。

 

前真之(以下前):2011年3月11日に発生した東日本大震災は、非常に大きな理由になっています。それまでエネルギーについて本気で考える人は、ごく少数だったはずなんですよ。ところが震災によって、日本のエネルギー事情の脆弱さが浮き彫りとなりました。太陽熱を利用すれば、住宅で使用するエネルギーは減らせる。そこから人々の関心がゼロエネルギーハウスへ寄せられるようになったのだと思います。

しかし「OMX」の誕生に到るまで、そこから時間がかかりました。「OMソーラーを導入したいけれど、二重設備などコスト面の課題がネックになっている」といった話を工務店の方々から、伺っていたんですね。それを解決するためのアイデアはある。だけど実際に具現化させるのは、技術的にとても困難です。そんな中、山口県の長府製作所が協業してくださることになり、2014年より完成に向けて動き出しました。

 

 

飯田祥久(以下飯田):実は我々にとっても衝撃だったのですが、OMソーラーが蓄熱したエネルギーは想定していたほど活用できていないという事実が明らかになってきたんです。せっかく集めた太陽熱を、すべて有効活用しなければもったいない。OMソーラーを次世代へ繋いでいくためにも新商品の開発は不可欠でしたし、自分たちでOMソーラーの神話的な要素を打ち破っていかなければ、明日はないかもしれないと危機感を覚えました。

 

前:OMソーラーは、太陽熱を集め、蓄熱し、床暖房や断熱・機密性能により家全体を持続的に温めるといったパッシブソーラーシステムが中心です。屋根から集めた太陽熱と、補う程度にヒートポンプで集めた空気熱のコンビによって暖房・冷房・換気・給湯をまかなうOMXは、太陽熱をできるだけ早く室内に届けようという仕組みなので、OMソーラーと異なるんですよ。

 

飯田:100の太陽熱を集めて貯めて、そこから熱を利用するのがOMソーラーならば、OMXは50の太陽熱を集めてそのまますべて使い切る、といったイメージかもしれません。

 

 

ーOMソーラーかOMX、どちらを導入するか迷った場合、どのような視点で選べばよいのでしょうか?

 

飯田:OMXはOMソーラーの系譜の中でも全く新しい存在です。OMソーラーの既存技術を進化させたものがOMXというわけではなく、考え方が違うんですね。太陽熱だけを活用するOMソーラーに共感してくださる方は今後もいらっしゃるでしょうし、OMXが好きという方はこれから現れてくるのではないかなと思っています。
OMXの導入段階では、イニシャルコストが高いように感じられるかもしれませんが、ランニングコストがかからないんですよ。

 

前:太陽光発電は売電収入を見越すと、約10年で償却できる制度になっているんです。光熱費の請求が1円もこないどころか、むしろ売電によってお金が入ってくる可能性もある。さらに一般的なゼロエネルギーハウスはエアコンなどの二重設備のコストが必要になりますが、OMXには追加コストがありません。

 

 

ー「平成29年度サステナブル建築物等先導事業(省CO2先導型)」に採択されたことも、OMXの導入を検討されている方にとって朗報ですね。

 

飯田:ええ。サステナブル建築物等先導事業とは、省CO2の実現性に優れた先進的なプロジェクトの普及拡大を目指すために、国土交通省が補助を行う制度です。対象となるのは、2018年10月より発売を開始するOMXを導入した戸建・新築住宅。2019年4月末までに完成する物件が条件ですが、先着121件において最大195万円の補助金を受けることができるんですよ。この制度を利用すれば、初期費用の償却時期はもっと早まると思います。

 

 

 

健康をサポートする自然の恵みを生かした温熱環境

 

 

ー近年、自然エネルギーへ関心を抱く人は増えているように感じます。そのような背景を踏まえ、この時代におけるOMXの必要性について、どのようなお考えをもたれていますか?

 

飯田:OMソーラーは2017年に創業30周年を迎えました。当時OMソーラーが住宅業界に与えたインパクトは、とても大きかったという自負があります。さまざまな競合商品がひしめく昨今、マーケットにどう働きかけていくのか、企業として過渡期に入っていた現実。OMXは「太陽熱を中心とした自然エネルギー活用」と「熱と空気をデザインする」という我々の指針を守るための、新たな武器だと考えています。

 

前:OMソーラーという技術を世間が驚きをもって迎え、それがひとつの思想となり、文化にまで成熟しました。OMXはそのようなイデオロギーに共感してくださる方はもちろん、単純に「長期的に捉えてリーズナブルなシステムなんです」とご提案することだってできる。いろんな入り口から好きになってもらえるのがOMXなんです。

 

 

ーインターネットなどで情報が収集しやすく、個人の思考が多様化している現代だからこそ、OMXは幅広い方々に受け入れられそうですね。

 

前:暮らしや生きることの楽しさは、人によって違うわけです。インターネットやスマートフォンが発達して技術が進化したとしても、家なんてもたなくていいという意見があったとしても、家の価値はあるんですよ。家族で過ごしたり、友人を招いたり、家を軸に人生の楽しみが広がっていく。設計段階から「自分たちはこういう暮らしを送っていくんだ」と思い描いたうえでOMXを導入した方が、満足度が高いと思いますよ。ほどほどに自然を受け入れながら、楽しく毎日を過ごしていく。それを家族や友人とシェアしたいね、となるのが一番いい。健康には孤独が最も悪いそうですから。

 

 

飯田:自然の恵みを生かして「冬は暖かく、夏は涼しい」という温熱環境をつくるOMソーラーの家は、健やかな暮らしをサポートします。健全な体が維持されると健全な心にもなると思うんですよね。

 

前:OMXは一日中、暖房・冷房で同じ温度に保つことには応えません。太陽熱の恩恵を最大限に活用するため、多少の室温の変化は受け入れる。昼は太陽の暖かさを感じ、夜は少し温度が下がっても快適な温度を確保。人間が心地よく過ごせる快適温度帯の範囲内であることは大前提です。このような好ましい変化を、我々は「温度リズム」と名付けました。

 

 

ー「温度リズム」はOMソーラーの基本的な概念を踏襲している印象を受けます。

 

飯田:前先生から温度リズムの思想をご提案いただいた時は、我々も胸をつかれたようでした。OMソーラーの基本コンセプトにも準じていますし、まさにコレだと。

 

前:太陽熱によってつくられた室内の温熱環境は、みんなも受け入れやすいんじゃないかなと思っているんですよ。例えばエアコンの効いた部屋に、何人かいたとします。ある人にとっては暑く、ある人にとってはちょうどよく、ある人にとっては寒い。そうすると、リモコンの奪い合いが起こりますよね。機械の力で誰かが決めた環境だと、人は急に不満をもつんです。オフィスなどは大勢の人がいますから、文句をいう人が少なさそうな設定温度になる。だけど住宅は違います。しかも太陽の恵みを生かしているのですから、不思議と納得感があるんですよ。

 

 

 

幸せな家づくりは、幸せな地球の未来に繋がっている

 

 

ーもし日本中の一般住宅がOMXないしOMソーラーを導入したら、地球の環境はどうなると思われますか?

 

飯田:おそらく世界の平均気温の上昇を2度以内に抑えるかなめとなるのではないでしょうか。一次エネルギーや二次エネルギーの消費量が約55%削減されますしね。

 

前:環境省が掲げている「温室効果ガス2050年80%削減のためのビジョン」や「21世紀末までにCO2の排出をほぼゼロに」といった目標は、実現可能になると思いますよ。莫大なエネルギーを使い、膨大なCO2を排出している現在の日本は、決して幸せとはいえません。巨大なオフィスが解体されて在宅勤務が基本となれば、必然的にCO2は削減されます。その代わり、国家の経済力は落ちるかもしれない。だけどみんながゼロエネルギーのOMXやOMソーラーの家に住み、そこで仕事をしたとすれば、日本はすんなりサステナブル社会へと移行し、誰しもが幸せに、快適に、楽しく暮らしていけるはずだと感じているんです。それがエコハウスを研究し続けている僕の使命だったんじゃないかなと、最近思うんですよね。

 

 

ーOMXとIoT(Internet of Things)の連携については、いかがですか?

 

飯田:OMソーラーはもともと、外気温や室温、人の体を認知する制御システムに力をいれてきました。現在は建築のみの利用となりますが、スマートハウスの構想はある。OMXを家の心臓部とし、頭脳部分とどのように結びつけるかは、次の大きな課題となっています。

 

前:OMXは制御システムが進化していくポテンシャルを有していますから、技術の進歩に応じて連動ができるんですよ。この先どんな楽しい生活が生まれるのかは、僕の知恵の範囲を超えていると思いますね。

 

 

ーOMXの存在は、幸せな家族や幸せな日本の未来そのもののようですね。

 

前:そうなってほしいですね。単純に寒くないとか、電気代が安いとか、それだけじゃ物足りないんですよ。住まいを通じて、もっと幸せになってほしいんです。

 

飯田:設備的な技術のみならず、「日本人は何に対して心地よさを感じるのか」といった住文化的な側面も大事にしていきたいと考えています。

 

前:僕が建築を志したのは、建築を建てさせない研究がしたかったからなんです。実家の近所には素晴らしい雑木林がたくさんありましたが、あっという間に無くなってしまった。だからそれをどうにか規制できないかと思ったんですよ。

しかし大学に入学してみると、建てることを推奨する教育ばかり。それで環境へ目を向けたんですね。その頃はすごく悩みました。苦しくて。いずれ地球がめちゃくちゃになるのは明らかでしたから。そこで技術の研究をしてみて気付くわけです。「人間は地球を最優先に考えられないな」と。同時に「だけど身近な人を幸せにするためには力が湧くよね」と感じました。そうして、家庭の幸せを司る家づくりの重要性を認識するようになっていったんです。

 

 

飯田:前先生の主張はずっと変わりませんよね。家の幸せは家族の幸せ、しいては日本の幸せ、地球の幸せだと仰っている。

 

前:同じことだから、あえて地球や日本を語らなくてもいいんです。省エネで、電気代も安く、快適に過ごせるから幸せですよと、それだけで十分。家を建てる工務店の方だって、目の前にいるお施主さんを幸せにできるっていう方が頑張れるだろうし、お施主さんも家族の幸せを考えた家づくりの方が楽しいじゃないですか。

 

飯田:そうですね。このままいくと、確かに地球は危ない状況にあります。それをなんとか食い止めるためにも、OMXをある種の代弁者として広めていきたい。自然エネルギーを活用した健康で快適な温熱環境をつくっていくという思いは、創業以来変わりませんし、今後も変わることはありません。OMXはその代表格であり、我々はそれを伝え続けるためのデバイスとなっていきます。

 

 

文:大森菜央 写真:豊島望 編集:MULTiPLE Inc.

 

 

 

 

PROFILE

飯田祥久
いいだ あきひさ
OMソーラー株式会社代表取締役社長。1971年生まれ。1995年青山学院大学国際政治経済学部卒業後、さくら銀行(現三井住友銀行)入行。2004年オーエムソーラー協会(OMソーラー)に入社する。 2009年代表取締役社長に就任。加盟工務店ボランチャイズの仕組みや、OMソーラーシステムの販売体制を整備し、経営に尽力してきた。一般社団法人パッシブデザイン協議会 理事。
前 真之
まえ まさゆき
東京大学大学院工学系研究科建築学専攻准教授。博士(工学)。1975年生まれ。1998年東京大学工学部建築学科卒業。2003年東京大学大学院博士課程修了、2004年建築研究所などを経て、2004年10月、東京大学大学院工学系研究科客員助教授に就任。2008年から現職。空調・通風・給湯・自然光利用など幅広く研究テーマとし、真のエコハウスの姿を追い求めている。