対談・インタビュー

【温度 × ペット】ペットは人間よりも敏感?「温度」がつくるペットとの快適な共存生活

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一級建築士・家庭動物住環境研究家 金巻とも子
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OMソーラー株式会社

PROFILE

金巻とも子(かねまき・ともこ)

一級建築士事務所かねまき・こくぼ空間工房主宰。一級建築士、一級愛玩動物飼養管理士、東京都動物愛護推進員、家庭動物住環境研究家。大手建設会社設計部に勤務。その後、一級建築士事務所を設立。一般住宅や店舗の設計業務のほか、猫や犬などのペットを中心とする家庭動物との健康な暮らしをテーマに、住環境コーディネーターとして活躍。特に住宅密集地、集合住宅など都市型空間でのペットと暮らす家づくりについては、長年研究を続けているライフワークであり、そのノウハウには定評がある。著書に『マンションで犬や猫と上手に暮らす』(新日本出版社)、『犬・猫の気持ちで住まいの工夫』(彰国社)、『ねこと暮らす家づくり』(ワニブックス)など。

 

 

犬や猫などのペットを室内で飼うことが推奨されるようになり、近年では、家を設計するにあたっても、あらかじめペットとの共棲を念頭に入れる家庭も多くなっています。建築士の金巻とも子さんは、そんなペットを愛する施主のために、犬や猫が快適に暮らすを設計している専門家。

 

ペットと共存するための家というと、キャットタワーなどのアスレチックや傷つきにくい建材といったものに目が向きがち。しかし、金巻さんは、そんな目に見える設備だけでなく、ペットと人間が快適に共棲できる「空間環境」の重要性を語ります。空気環境を整えることで、ペットたちにどのような幸せを与えることができるのでしょうか?

 

 

飼い主の温度意識は足りない

 

― 近年は、犬や猫を家の中で飼育する人も増えていますね。飼い主さんたちは、ペットの温度環境に対して、どれくらい気を配っているのでしょうか?

 

 

ここ数年、ようやく、犬の飼い主さんは温度を気にする方も増えてきました。人間と同様に犬も熱中症になるということが啓発され、暑すぎる環境は犬の健康にとって大きなリスクになるということが知られてきたんです。一方、猫については、冬場に温かい環境を与えてあげようという程度の認識でしょう。

 

ただし、犬、猫、どちらに対しても温度に対する認識はまだまだ足りないと考えています。犬も猫も、人間に例えるならば常にダウンジャケットを着ているような状態です。人間であれば、服の脱ぎ着で温度管理をすることができますが、動物たちはそれをすることができない。人間の側で、快適な温度を提供してあげなければならないんです。

 

 

― 具体的には、どの程度の温度が最適なのでしょうか?

 

一般的に、犬の場合、室内飼育であればだいたい20度前後が適切と言われています。ただし、秋田犬、柴犬、ハスキーなど「ダブルコート」と呼ばれるような、被毛が二重であったり、皮下脂肪の厚い寒冷地向けの大型犬の適温はもっと低い。一方、猫の場合は、人間と同じか1〜2度低い程度ですね。

 

また、温度だけなく、湿度にも気を配らなければなりません。犬や猫にとって理想的な湿度は、50〜60%程度と言われています。乾燥しすぎてもいけないし、多湿すぎてもいけない。多湿の環境であればダニや細菌が繁殖しやすくなり、乾燥しすぎるとフケや脱毛などが起こりやすくなるんです。2匹の猫を飼育している我が家では、冬になると加湿器も使って湿度を整えていますよ。

 

― 砂漠出身の猫は乾燥には強いものだと思っていました。

 

砂漠出身だから水をあまり飲まなくても大丈夫というだけで、乾燥に強いわけではありません。ただし、水も適量を飲まないと、猫の腎臓に負担がかかり、便秘、結石といった症状を引き起こしやすい。具体的には、体重1kgあたり、20cc程度の水を飲むことが適切と言われています。

 

― 温度や湿度などを整えない場合、どのようなリスクが考えられるのでしょうか?

 

 

温度や湿度によるストレスは、循環器系や皮膚に対しての疾患を引き起こす可能性があります。また、そこまで明確ではなくても、精神状態やイライラ、根気がないといった普段の行動にあらわれます。ペットの具合が悪くなると、どうしても食事のことに目が向きがちですが、実は、温度や湿度など、日々のストレスが原因となっていることもあるんです。

 

低湿度であると、物理的な人とのふれあいや絆にも影響します。たとえば、乾燥すると人も体や家の中も静電気をおこして、ものに触れて不快な思いをすることがありますね。犬や猫も同じです。お互いに触れたときに静電気がおきれば、まるでひっぱたかれたような衝撃を与えてしまうので、ペットとの絆に水を刺すことになってしまうんです。

 

人間でも、10代、20代ならストレスがあっても乗り切ることができますが、年齢を重ねるとストレスによって体調を崩しやすくなりますよね。それはペットでも同じ。特に、ペットは具合が悪くなってもその素振りを見せないために、順調そうに見えてもストレスがかかっていることがしばしば。目に見えて具合が悪くなった時には、すでに重病になっていたということも珍しくありません。ペットが生活している環境が、リラックスできる温度や湿度になっているかについては常に気を配ってあげたい。そのためにも、上手く暖房や冷房などの空調設備を使わないといけないんです。

 

 

暖房器具で熱中症に!?

 

― 犬にもさまざまな種類がありますが、特に温度や湿度に対して気をつける犬種などはあるのでしょうか?

 

ブルドッグ、フレンチブルなどの「鼻ぺちゃ」犬種は気をつけたほうがいいですね。通常の犬の鼻が出っ張っているのは、鼻腔内で温度を高くして空気を体内に取り入れるから。しかし、鼻が短なるように品種改良されたブルドックは、そんな空気の調節をすることができません。もともと体のつくりから循環器系に負荷がかかりやすいのですが、こういった温度・湿度のストレスが高い空気を吸い込むことでより過負荷となり、呼吸器疾患につながってしまうことが多いんです。

 

― 一方、猫についてはいかがでしょうか?

 

長毛種・短毛種などの違いはありますが、犬種ほど大きな違いはありません。それよりも、個体によっての差の方が大きいですね。うちの場合、三毛猫のマメは暑がりで、フクは寒がり。フクは青森出身の猫なので、寒さに強くてもいいはずなのですが、床暖房をつけると床を抱きしめて転がっています。今日は、取材の空気を察知していることもあり、何回呼んでも、ソファと床暖房に挟まれた空間から出てきてくれませんね(笑)。

 

 

― エアコン、ストーブ、電気カーペットなどさまざまな暖房がありますが、動物たちのためにはどの暖房が適切でしょうか?

 

猫の場合、直接火を燃やすストーブなどは、上に登ってやけどする恐れがあります。また、犬の場合、暖炉を作る時には危険なので柵をつけなければなりません。考え方としては、人間の子供と同じですね。

 

また、低温やけどが心配されるのが、電気ストーブや電気カーペット。接触暖房なのでペットたちは熱源にくっつきたがります。それによって、低温やけどを引き起こしてしまうんです。

 

 

― 熱源に直接触れるものは危険があるんですね。

 

特に、レトリバーは、皮下脂肪が多く、熱が内蔵に伝わるのが遅いため、身体が過度に熱くなっていても気づかない。ようやく熱くなっていることに気づいて冷たいところで身体を冷やしても、表面だけしか冷えていない状況で再び暖房に触れてしまう。そのため、熱が身体のなかにこもって、熱中症の危険にもつながるんです。

 

― 暖房器具で熱中症に……。猫の場合はいかがでしょうか?

 

猫も暑さには鈍感な生き物です。毛がストーブの形に焦げてしまっても気づかないことがあるくらい。やはり、熱源がさらされているものは置きたくないですね。また、ファンヒーターなど、風で温かい空気を送るタイプの暖房もオススメしません。当人たちは、ドライヤーの前にいるようで気持ちがいいのでしょうが、大量の毛が舞い散って飼い主としては大迷惑! 生活をする上ではとても困りますよね。

 

― では、冷房に関してはいかがでしょうか?

 

 

近年の異常な夏の暑さから、冷房を強めにかけすぎてしまい、風邪をひいたりお腹をこわしてしまうペットが数多く見られています。人間の場合、通常1メートルより上の高さで温度を判断していて、床面の温度をなかなか認識できません。猫の場合は寒ければ高いところに逃げることができますが、犬にはそれができないため、逃げ場がない。その結果、寒い中で我慢し、体調を崩してしまうんです。

 

― 人間の側ではなく、ペットの行動範囲から温度について考えなければならないんですね。

 

それなのに、ほとんどの飼い主は温度について全然考えていない。私のところには、落ち着きがない、吠えぐせがある、皮膚疾患といったトラブルの相談が寄せられますが、まず空気環境を指導しています。遊び場をつくることも大切ですが、それを支える健康な空気環境の大切さにも気づいてほしいですね。

 

 

人間のストレスをペットは見抜く

 

― ところで、ペットにとって「人間よりも少し寒い程度が適温」というと、やはり、人間が我慢して生活したほうがペットのためになるのでしょうか?

 

一枚余計に羽織る程度の温度で大丈夫だから、そんなに心配する必要はありません。そもそも、動物のために我慢をするというのはあまりよくない考え方。それよりも、動物にとって、いちばんの大きな環境要因は人間の存在です。実は、人間がストレスを感じている場合、動物たちは汗の中に含まれるストレスホルモンを敏感に察知するので、ストレスを感じていることに気づいているようだと、学術研究がされてもいるほどです。だから、飼い主自身がリラックスして過ごしやすいことが大切なんです。

 

― 人間の感じるストレスをペットは気づいている!?

 

 

はい。いくら笑顔で接していてもごまかすことはできません。人間がストレスを溜めないためにも、ペットのために何かを諦める生活はよくない。人間が幸福で、健康的な生活を送っていなければ、動物福祉は実現しないんです。

 

私が「ペットのための家をつくる」というと、「犬様御殿」「猫様御殿」というような、ペットを中心とした家をつくると思われがちですが、それは大きな誤解です。人間がストレスなく生活できることが、ペットにとっていちばんストレスなく生活できる環境です。キャットタワーなどのアスレチックは、その前提があって機能するものなんですよ。

 

ただ、人間の高齢者や幼児がいる場合、室内温度は高めに設定しなければいけないこともあり、そうすると、ペットにとっては暑すぎる環境になってしまいます。その場合、身体を冷やす場所を作ってあげるような工夫が効果的でしょう。冷たい床タイルなどを設置することで、犬や猫が自分で調整できる涼感を得る場所をつくってあげれば、人間もペットも健康的に共存できます。

 

― ペットと飼い主の双方が快適に生活するために、犬や猫の専用部屋をつくるという発想はいかがでしょうか?

 

 

個人的にはあまりおすすめしません。だって、ペットと触れ合いたいから飼育をしているんですよね? それなのに、生活空間を分けて触れ合いの時間が短くなってしまうのは本末転倒です。犬や猫が自発的に人の部屋に出られるように専用室をプランニングすることもできますが、関係が良好であるほど、ペットの側も少々我慢してでも人と一緒にいたい気持ちになりますしね。建物としても、一部の部屋だけの温度が異なるような環境は気温差によってカビを生み出す原因になってしまうし、犬や猫にとっても、急激に温度が変わる影響はあまり健康的ではありません。

 

また、ニオイの出るペット用トイレは、廊下や人間のトイレなど、なるべく生活環境の外に置きたいですよね。しかし、居室だけ管理する冷暖房だと、急激に温度が変わるのを避けるために、猫や犬はあまり部屋を出たからずにトイレを我慢してしまう。その結果、腎臓病のリスクが上がってしまうんです。

 

― OMXの場合は全館の冷暖房ですが、そのような設備は、ペットのためにも効果的なんですね。

 

そうですね。OMXの床暖房なら、床表面温度も24℃程度と、低温やけどの心配がなく、床面近くで生活する犬でも熱中症になりにくいので、ペットを飼育する上では魅力的です。

 

 

また、今は、室内飼育が8割と言われ、犬も猫も、24時間のほとんどを家の中の空気を吸って過ごしています。その空気を淀みのないきれいなものにしておくことは、ペットの健康にとってとても大切なこと。OMXのような全館空調を導入する場合、設計段階で家中の空気の流れが計算されており、家の中にも新鮮な空気が流れています。

 

例えば、この水槽を見てください。うちの水槽では、エビが魚の排泄物を分解し、水草の肥料を作り、水草は光合成を行って酸素を吐き出し、それを魚が取り込むという循環が行われています。この循環を滞りなく行うためには、健全な水の流れを作らなければなりません。

 

人間は気分転換に外出したり、自宅以外にも快適な空間に行くことができますが、室内で飼われているペットにとっては、魚にとっての水と同様に、家の空気が全てです。今の住宅は高気密・高断熱で、部屋が区切られているし、ベッドなどの固定家具を使うようになったため、どうしても部屋中に空気が行き渡りにくくなっている。空気のことを考え、ペットがいつも心地いい空気を吸えるようにしてあげたいですね。

 

文:萩原雄太 写真:寺島由里佳 編集:MULTiPLE Inc.